国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

南スーダンで家畜900万頭以上の保護を目的とした最大規模の家畜ワクチン接種キャンペーンを開始

2018/07/19

国連食糧農業機関(FAO)は南スーダンにおいて、ますます頻繁に発生する疫病に対処するため、今年、家畜900万頭以上の保護を目的とした最大規模の家畜ワクチン接種キャンペーンを開始しています。

なぜ家畜に重点?

南スーダンでは、人口の65%以上が畜産で生計を立てています。ミルクや肉、血は、たんぱく質やそのほかの栄養素に必要不可欠な源となります。南スーダンの農民は次のように言います。「牛は飢餓を追い払う」。

「牛は私にとって、とても重要です。畑仕事や畑を肥やすために使います。子どもたちもミルクを頼りにしています。もし十分な数の牛を持っていたら、何頭か売って、ほかの必需品を買うこともできるのです」と北西部・アウェルに住む30歳の畜産農家、キーア・マウェインは話します。

薬草に頼るしか選択肢はない

「しかしここでは多くの病気が発生します。私の家畜1頭も病気です。ここでは病気が一気に広がるので、ほかの家畜も病気になってしまわないか心配です。家畜が病気になった時、ここには一切薬がないので、薬草を使いました。しかし効きませんでした。その家畜は体重が減って、今では食べることもしません。残念ですが、まもなく死んでしまうでしょう」とキーアは付け加えます。

農村地域で家畜が病気になった時、畜産農家には2つの選択肢があります。薬草を食べさせること、または動物用医薬品をもらうため町まで出かけていくことです。

町までの旅は数日かかることが多く、また動物用医薬品がなかったり、値段が高すぎたりすることもしばしばあります。そのため、大半の畜産農家は薬草に頼っています。

「私たちはみんな牛を飼っています。数頭の場合もあれば、数千頭の場合もあります。しかし、家畜サービスはありません。家畜が病気にかかったとき、彼らはそのままでいるしかないのです。去年、私は105頭の牛を失いました。牛がどのような病気にかかっているのかは分かっていましたが、薬を持っていませんでした」とFAOによるトレーニングを受けた地域社会に拠点を置く家畜衛生員、ルアル・デング・ルオルさんは振り返ります。

ワクチン接種が行われる

キーアとほかの畜産農家は彼らの家畜を集め、村から数キロ離れたワクチン接種できる場所まで歩いていきます。

そこでは、ルアルと彼の同僚たちはFAOから提供を受けたワクチンとワクチン用品を用意して待機していました。

ワクチン接種をさせるためフェンスで囲まれた通路まで所有者が牛を誘導します。

牛は1頭ずつ通り抜けます。何頭かは見てわかるほどやせ細り、弱っています。ほかの牛はすでに病気にかかっているため、ワクチン接種することができません。熟練の獣医師はこうした牛を診察し、可能であればその場所で入手可能な薬を使って処置を行います。

“コールドチェーンがなければ、仕事ができない”

「私は7年間FAOと一緒に働いています。最初、家畜にどのようにワクチンを打つのかについて学びました。その後、さらにトレーニングを受けたので、病気を理解、処置できるようになりました。とても大変な仕事です」とルアルは話します。

ワクチン接種の日、ルアルと同僚は畜産農家が牛たちを放牧し、気温が上昇する前の朝6時に開始します。この国では一年中高い気温と向き合っていかなければなりません。平均気温は30℃ですが、もっとも暑い期間は45℃まで上がります。

「ほとんどの場合、車で移動しますが、歩かなければいけない時もあります。冷却ボックスを一緒に運びます。今日は首都ジュバから飛行機でワクチンを持ってきました。アウェルからは、車でここまで運び、この地域に1つしかない冷蔵庫の中に保管していました。コールドチェーンがなければ、仕事ができません」とルアルは説明します。

FAOは日々の検査やワクチン接種を実施できるよう1000人以上の地域社会に拠点を置く家畜衛生員を育成してきました。コールドチェーンには、最も一般的な病気に使われる7種類以上のワクチンが保管されています。

これは予防や緊急のワクチン接種だけでなく、家畜衛生ケアの普及も大きく向上させました。FAOは日本政府の支援を受け、家畜診断研究所の能力を最大限に回復させる取り組みを行っています。これにより研究所における病気の診断能力を向上させ、対応をより迅速かつ効率的にしていきます。

今後は

FAOは完全な家畜ワクチン接種キャンペーンの実施と、最近発生したリフトバレー熱に対応するために、1310万米ドルを早急に必要としています。FAOは3回目のワクチン接種キャンペーンを行なうために必要な資金は有していますが、現在までに、リフトバレー熱に対応する資金援助を受けていません。

リフトバレー熱は家畜から人間に感染する可能性があり、公共衛生に大きな脅威を与えます。蔓延を阻止し、早期警戒や監視システムを強化するための資金が必要です。

資金的に可能であれば、ワクチン接種キャンペーンの一環として、FAOはワクチン接種とその処置費用を賄うだけでなく、さらに地域に根ざした家畜衛生員のトレーニングも実施し、既存のコールドチェーンの拠点維持のほか、遠隔地にも新たに設置します。

これは家畜衛生ケアサービスや医薬品を提供する際、遠距離、限定的なコールドチェーン施設、雨季にアクセス不能となる未舗装の道路、家畜衛生サービス欠如などの主な妨げに対処する一助となります。

南スーダンにおけるFAOの活動は、カナダ、デンマーク、EU、日本、クエート、オランダ、ノルウェー、南スーダン人道基金、スイス、イギリス、アメリカ、世界銀行の支援によって可能となっています。

 

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