国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

国連食糧農業機関(FAO) 事務局長ジョゼ・グラチアノ・ダ・シルバによる論説

2018/10/15

ゼロハンガー:今日の私たちのアクションが明日の未来をつくる

3年前の2015年9月、すべての国連加盟国が持続可能な開発のための2030アジェンダを採択しました。飢餓とあらゆる形態の栄養不良の撲滅(持続可能な開発目標2)は2030アジェンダの極めて重要な目標であり、安全で、公平で、平和な世界のためになくてはならない必須条件であると世界のリーダーによって明確にされました。


逆説的に、世界の飢餓はそれ以来、増加の一途を辿っています。最新の推定によると、世界の栄養不足人口は2017年に3年連続で増加しました。昨年、8億2100万人が飢餓に苦しみ(世界人口の11%、地球上に住む人の9人に1人)、その大半はサブサハラ・アフリカや東南アジアの貧しい農村地域に住む家族経営農家や自給農家です。


しかし、栄養不足人口率の増加だけが、私たちが直面している大きな課題ではありません。他の形態の栄養不良も増加しています。 2017年には、少なくとも15億人が微量栄養素の欠乏に苦しみ、健康や生命を損なうと同時に、成人の肥満の割合は2012年の11.7%から2016年の13.3%(6億7230万人)に増加し続けています。

飢餓は、主に紛争、干ばつ、極度の貧困に襲われた特定の地域に限定されています。一方、肥満はどこでも見られ、世界中で増加しています。実際、私たちは肥満のグローバリゼーションを目の当たりにしています。例えば、アフリカでは肥満率が他のどの地域よりも急速に上昇しています - 成人の肥満率の上昇が最も速い世界の20カ国のうち8カ国がアフリカにあります。さらに、小児期過体重は2017年に5歳未満の子ども 3,800万人に影響を与えました。これらの子どもの約46%がアジアに住み、25%がアフリカに住んでいます。

増加する肥満率を止めるための緊急的な行動を求めない場合、世界の栄養不足の人々よりも、すぐに肥満の人々が多くなるかもしれません。肥満の成長率は、巨大な社会経済的なコストを生み出しています。肥満は心臓病、脳卒中、糖尿病およびいくつかの種類の癌など、多くの非伝染病の危険な要素です。推定では、世界における肥満の経済的影響は年間約2兆米ドル(世界のGDPの2.8%)であることが示されています。これは、喫煙や武力紛争の影響と同等です。


今年、世界食料デー(毎年10月16日)は国際社会に、人類に対する基本的な政治的コミットメント -すべての形態の栄養不良の根絶- を思い起こさせ、2030年まで(12年後)に飢餓のない世界は達成できるという意識を啓発するとを目的としています。ブラジルの経験は、念頭におくべき良い例です。

FAOの推計によれば、ブラジルの飢餓は、2000年代初めの総人口の約10.6%(約1900万人)から、2008〜2010年の3年間で2.5%未満に減少しました。これはFAOが意味のある統計的推論を行うことができる最小値です。この栄養不足の人々の減少は、主にルーラ元大統領の堅実なコミットメントと、北東部の極度の貧困と長期化する干ばつの影響に対処する公共政策や社会保護プログラムの実施により実現しました。

事実、政府は脆弱な人々が必要な食料を購入するのに十分な収入を得られるようにすること、または紛争時においても、彼らが自らのために食料を生産することのできる手段を確保することによってゼロハンガーを達成するという最も基本的な役割を担っています。

しかし、世界のリーダーは、ゼロ・ハンガーの概念は広範であり、栄養不足との戦いに限定されないことに留意する必要があります。ゼロ・ハンガーは健康な生活のために必要な栄養素を人々に提供することを目指しています。ゼロ・ハンガーはあらゆる形態の栄養不良の根絶を包含します。よって、人々にただ食料が行き渡るようにするだけでなく、人々に栄養のある食料を与えることも含みます。

現在の世界的な食料システムは、非常に高カロリーでエネルギー密度が高く、脂肪、砂糖および塩分含量が高い加工食品の供給性およびアクセスを高めています。食料システムは、すべての人々が健康で栄養価の高い食料を消費することができるような形に変わらなければいけません。私たちは、個々の問題としてではなく、公共問題として肥満に取り組む必要があります。これには、政府だけでなく、国際機関、国家機関、市民団体、民間セクター、そして一般市民も関わるセクターを越えたアプローチを採る必要があります。

それは健康的な食生活に向けた集合的な努力でなければなりません。例えば、ラベル表示や有害成分の禁止などの基準の作成、学校カリキュラムにおける栄養学の導入、食料ロスや廃棄を避ける方法の導入、家族農業による地元で栽培された新鮮で栄養のある食料へのアクセスを妨げない貿易協定の制定などが含まれます。

「私たちのアクションが未来をつくる」が2018年の世界食料デーのメッセージです。今が私たちのコミットメントと、更に重要なこととして、飢餓とあらゆる栄養不良のない持続可能な世界への政治的支援を新たにする時です。