国際連合食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所

ウクライナの穀物の輸出促進に向けFAOと日本が協力:世界の食料安全保障強化へ

2022/07/05

 

キーウ/横浜/ローマ - 国際連合食糧農業機関(FAO)は、日本政府からの新たな1,700万米ドル(約23億円)の拠出を受け、戦争の影響で貯蔵施設が不足するウクライナの農民に対し、この7、8月の収穫期に向けて貯蔵庫を確保するとともに、ウクライナ産の主要農作物を国際市場に輸出できるよう支援を開始する。ウクライナで実施するFAOの緊急支援計画に対し、日本政府からの2度目の拠出となる。

日本からの資金援助により、FAOはウクライナ農業政策・食料省と連携し、穀物の貯蔵能力の向上を図り、収穫から輸出までのサプライチェーンの機能の回復を後押しするとともに、ウクライナの農家が今後も農業を続けられるよう生産力の維持を図る。

日比絵里子FAO駐日連絡事務所長は、「ウクライナにおける戦争により、世界各地で食料安全保障が脅かされる中、この日本の支援は、ウクライナだけでなく、食料輸入に依存する多くの開発途上国のニーズも考慮したグローバルな取り組みです。FAOは、農林水産業や食料の専門機関としての知見や経験、20年にわたるウクライナとの緊密な協力関係を梃子に、ウクライナの農家への支援と、世界の食料不安の解消に向けて尽力していきます」、と強調した。

レイン・ポールセンFAO本部緊急支援・レジリエンス部長は、「ウクライナの農家は、自分たち自身、地域社会、そして世界中の何百万もの人々に食料を供給しています。ウクライナの農家が食料生産を継続し、安全に貯蔵し、代替市場にアクセスして農産物を販売できるようにすることで、ウクライナの人々が自分たちが必要とする食料を確実に手にするだけでなく、生計を守るとともに、国内の食料安全保障を強化することになります。同時に、ウクライナの農家への支援は、輸入に依存する国々において、穀物を適切な価格で安定して十分に供給するためにも欠かせません」、と述べた。

ウクライナは、年間4,500万トンを超える穀物を国際市場に供給する世界で5本の指に入る穀物の輸出国である。ウクライナ農業政策・食料省によると、黒海の港の封鎖により、昨年収穫した輸出用の穀物と油糧種子が未だ1,800万トン国内に滞留している。かと言って、海上輸送で輸出できない穀物を、鉄道や河川を利用する代替輸送ルートだけで運び出すことは不可能だ。新たな輸送ルートにも課題が残る。

今季、ウクライナでは最大6,000万トンの穀物の収穫が見込まれている。しかし、輸出が滞っているため、昨年収穫した作物が貯蔵施設の全容量の30%を占めたままとなっている。

ピエール・ヴォティエールFAOウクライナ国別事務所代表は、「日本からの新たな支援により、ウクライナの東部、中部、南部、北部の10の州において、小規模農家にはポリエチレン製の簡易穀物貯蔵庫や穀物用ローダー及びアンローダーを、中規模生産者や組合には各種の組み立て式貯蔵庫を提供し、現在ウクライナが抱える貯蔵能力不足の解消に向け支援していきます」、と抱負を述べた。

さらに、本支援の一環として、穀物輸出の代替輸送ルートを実用化し、イズマイール検疫所における検査能力を拡大するため、ウクライナ政府への技術協力も実施する。農家は、同施設における動植物検疫や食品安全上の検査、証明書の発行等により、輸出に必要な国際基準を満たすことができるようになる。


ウクライナにおけるFAOの支援

FAOは2003年よりウクライナで活動しており、2015年以降は緊急支援や開発プロジェクトを中心とした活動に注力している。

戦争の開始に伴い、FAOは緊急支援計画を策定し、随時更新している。同計画では、2022年12月までに約98万の小規模農家や中規模生産者を支援するため、1億1,540万米ドルの資金援助を呼び掛けている。

6月29日現在、FAOは既に7万5千人超の人々に対し、小麦や野菜の種、じゃがいもの種芋などを配布し、多目的利用のための現金支給を実施。さらに、今後数週間で4万4千人に対し、野菜、穀物、牛乳、肉、卵の自給に向けた支援を行う予定である。

日本政府は、すでに本年4月、ウクライナにおけるFAO緊急支援計画へ拠出。今回の拠出は、同計画に対する日本政府からの第2弾で、合わせて計2,000万米ドルの支援となる。

これまでに、FAOの緊急支援計画には、日本をはじめ、オーストラリア、ベルギー、EU、フランス、米国国際開発庁、国連の中央緊急対応基金等から、計3,040万米ドルの資金が集まっている。支援額が増えれば、FAOはより多くの人に援助の手を差し伸べ、食料生産を拡大しウクライナの食料安全保障を確保することができるようになる。


関連情報 
  • 2021年には、食料危機に陥っている世界の55の国のうち36か国が、小麦の輸入の10%以上をウクライナ及びロシアに依存しており、中でもいくつかの国は小麦の輸入の大部分をウクライナ及びロシアに依存していた。
  • ウクライナ農業政策・食料省によると、平時は毎月600万トンの穀物を輸出していたが、2022年3月には32万2千トン、4月には97万トン、5月には120万トン、そして6月に100万トン強の穀物の輸出にとどまっている。
  • ウクライナ政府統計局によると、2022年1月1日時点で、同国の貯蔵能力は7,500万トンであったが、戦争により直接被害を受けた地域を考慮すると、現在使用可能な貯蔵能力は6,090万トンにまで落ち込んでいる。
  • ウクライナ農業政策・食料省によると、6月2日時点で、昨年比19.4%減の1,420万ヘクタールの春作物の植付を終えている。
  • 生産者の約25%は、作物の病害虫防除に必要な物資が不足している。
  • 自給的生産者も商業的生産者も、どちらも農業生産と輸送に必要な燃料が手に入らない状況にある。この燃料不足は7、8月に行われる冬作物の収穫に影響を及ぼしうる。
  • 種子、病害虫防除材、肥料及び燃料の価格は平均して40%から45%上昇しており、農業投入財の価格は高騰している。今後、生産者が、生育中の作物を収穫しても収益が生まれないと判断する可能性がある。

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